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弁護士 小田 康夫
2019.03.06
2019.03.06
メンタリストDaiGoがYouTubeで指摘した「やったもん勝ち」について
インターネットで YouTubeを観ることが増えました(テレビの視聴時間は減りました)。
最近、よく見るのはメンタリストDaiGoの心理学の話です。
色々な動画がupされているのでぜひ皆さんも。
https://www.youtube.com/user/mentalistdaigo/videos?app=desktop
私が気になったのは、メンタリストDaiGoさん自身のネットの誹謗中傷被害についての話。
その中で、
「ぼく自身、ネット中傷被害を受けた」
「けど、裁判は大変」
「仮に裁判をしても慰謝料が低すぎ」
概要、こんな趣旨の発言だったと思います(原文を確認しようと、アップされている動画を探しましたが、動画自体の件数も動画内の情報量も豊富であるため私が見た動画を発掘できませんでした。)。「裁判所は加害者のやったもん勝ちを許容している」という指摘だと私は受け取りました。
「相場」感覚でいえば(裁判所が認めそうな金額)、一般人がインターネット上の掲示板で誹謗中傷の被害を受けたケースで、慰謝料額は10万円程度でしょう。この金額は、被害者の感覚からすれば、満足できる金額ではないと思います。なお、裁判所は「不法行為の内容、手段及び経緯などの諸事情に鑑み」て慰謝料額を決定するため、ケースによっては、10万円を超えるものもないわけではありませんが、数としては多くはないでしょう。
また、ネット上で何らかの被害を受けても、被害者は、まず、加害者を特定しなければなりません。プロバイダに任意の開示を求めても、開示していただけない場合、裁判所に対し、(プロバイダを複数経由しているケースでは複数回、)プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を行い(担保を積む仮処分も含めて)、加害者を「追跡」します。そして、加害者の氏名・住所が判明して、初めて、当該加害者に対して、訴訟提起ができます。「追跡」調査実費(及び弁護士費用の一部)を認める裁判例はありますが、被害者が中傷被害を受けたことによって時間的・経済的に被ったすべての精神的負担(ある意味、間接的な被害)について、裁判所が、適切に慰謝料に反映されているか(増額させているか)には、疑問があります。
話は変わりますが、
「株式相場の予想屋」という話があります。
その人は、入会金を払えば、株の「必勝パターン」を教えると言います。
その人が言うには、
「10週連続で正しく株の上下を予想できる!」
とのこと。
皆さんは、そんなの
「当たるわけない」
と思うでしょうか。
なんと(!)
その人は、実際に、10週連続で株価の動きを当てることができました。
「本当に必勝パターンがあるんだ!」
と騙されて、
多くの方がこの種の詐欺の被害に遭いました(おそらく今も遭っている)。
これは単純な確率の問題です。
詐欺師は、
母集団(仮に1024人としましょう。)を対象に、ある株式会社の株価を題材に以下のようなトリックを使います。
(A)半数の512人には、翌週の株価が上がるとDM(ダイレクトメール)し、
他方、
(B)残りの512人には、翌週の株価が下がるとDMする。
仮に、翌週、株価が上がれば、(A)の512人を対象に、
(AA)半数の256人には、翌週の株価が上がるとDMし、
他方、
(AB)残りの256人には、翌週の株価が下がるとDMする。
以下同様に、128人、64人、32人、16人、8人、4人、2人となるまでやったとき。
ご想像の通り、
この最後の1人にとっては、
「本当に必勝パターンがあるんだ!」
となってしまいます。
現代では、PCとインターネットを利用して、容易に、かつ、大量の情報を、一度に送り付けることが可能となりました。また、顧客情報などのビッグデータを収集することで、上記のようなトリックを信じやすい被害者の名簿のようなものが出回るリスクが高まり、さらに被害は深刻化する可能性もあります。
かつては、「1024人を母集団として被害者が1人のみ生まれた世界」だったものが、「1億0240万人を母集団として被害者が10万人に生まれ、その被害も深刻化する世界」に大きく社会構造が変わろうとしている。
詐欺の手法が容易で、被害者が大量かつ損害が深刻化しかねない世界で、本当に、詐欺被害の暗数を無視して、裁判所にようやく浮かび上がった個別の被害者だけの存在を前提に損害算定することに固執することは適切なのか、詐欺の加害者に対し、「そのようなビジネスモデルは、カウンターパンチが大きくて割り合わないよ」と教えてあげるだけの賠償を認める必要はないか、そして、そのような法の仕組みを作る必要は本当にないのか。
第三者を誹謗中傷する行為についても、詐欺的ビジネス同様、故意で行われていることが多く、そのような場面で、被害者側で負担が大きく、十分な慰謝料が認められず、事実上、被害者がいわゆる「泣き寝入り」をするしかないとすれば、非常に大きな問題です。また、中傷被害の中には、売名目的で、つまり、結局はお金のために、有名人にイチャモンを付けて絡むケースがあるようです。そのような故意で行われた(大量の)中傷行為には、多額の慰謝料が認められてしかるべきかと思います。とりわけ、このような誹謗中傷行為が犯罪行為である詐欺と同様に金銭目的で行われるとすれば、看過できません。
DaiGoが指摘するように、ネット社会における慰謝料額は低額すぎて、加害者のやったもん勝ちを裁判所が許容している、と感じてしまうのは、私を含め、少ない人数ではないでしょう。
最近、よく見るのはメンタリストDaiGoの心理学の話です。
色々な動画がupされているのでぜひ皆さんも。
https://www.youtube.com/user/mentalistdaigo/videos?app=desktop
私が気になったのは、メンタリストDaiGoさん自身のネットの誹謗中傷被害についての話。
その中で、
「ぼく自身、ネット中傷被害を受けた」
「けど、裁判は大変」
「仮に裁判をしても慰謝料が低すぎ」
概要、こんな趣旨の発言だったと思います(原文を確認しようと、アップされている動画を探しましたが、動画自体の件数も動画内の情報量も豊富であるため私が見た動画を発掘できませんでした。)。「裁判所は加害者のやったもん勝ちを許容している」という指摘だと私は受け取りました。
「相場」感覚でいえば(裁判所が認めそうな金額)、一般人がインターネット上の掲示板で誹謗中傷の被害を受けたケースで、慰謝料額は10万円程度でしょう。この金額は、被害者の感覚からすれば、満足できる金額ではないと思います。なお、裁判所は「不法行為の内容、手段及び経緯などの諸事情に鑑み」て慰謝料額を決定するため、ケースによっては、10万円を超えるものもないわけではありませんが、数としては多くはないでしょう。
また、ネット上で何らかの被害を受けても、被害者は、まず、加害者を特定しなければなりません。プロバイダに任意の開示を求めても、開示していただけない場合、裁判所に対し、(プロバイダを複数経由しているケースでは複数回、)プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を行い(担保を積む仮処分も含めて)、加害者を「追跡」します。そして、加害者の氏名・住所が判明して、初めて、当該加害者に対して、訴訟提起ができます。「追跡」調査実費(及び弁護士費用の一部)を認める裁判例はありますが、被害者が中傷被害を受けたことによって時間的・経済的に被ったすべての精神的負担(ある意味、間接的な被害)について、裁判所が、適切に慰謝料に反映されているか(増額させているか)には、疑問があります。
話は変わりますが、
「株式相場の予想屋」という話があります。
その人は、入会金を払えば、株の「必勝パターン」を教えると言います。
その人が言うには、
「10週連続で正しく株の上下を予想できる!」
とのこと。
皆さんは、そんなの
「当たるわけない」
と思うでしょうか。
なんと(!)
その人は、実際に、10週連続で株価の動きを当てることができました。
「本当に必勝パターンがあるんだ!」
と騙されて、
多くの方がこの種の詐欺の被害に遭いました(おそらく今も遭っている)。
これは単純な確率の問題です。
詐欺師は、
母集団(仮に1024人としましょう。)を対象に、ある株式会社の株価を題材に以下のようなトリックを使います。
(A)半数の512人には、翌週の株価が上がるとDM(ダイレクトメール)し、
他方、
(B)残りの512人には、翌週の株価が下がるとDMする。
仮に、翌週、株価が上がれば、(A)の512人を対象に、
(AA)半数の256人には、翌週の株価が上がるとDMし、
他方、
(AB)残りの256人には、翌週の株価が下がるとDMする。
以下同様に、128人、64人、32人、16人、8人、4人、2人となるまでやったとき。
ご想像の通り、
この最後の1人にとっては、
「本当に必勝パターンがあるんだ!」
となってしまいます。
現代では、PCとインターネットを利用して、容易に、かつ、大量の情報を、一度に送り付けることが可能となりました。また、顧客情報などのビッグデータを収集することで、上記のようなトリックを信じやすい被害者の名簿のようなものが出回るリスクが高まり、さらに被害は深刻化する可能性もあります。
かつては、「1024人を母集団として被害者が1人のみ生まれた世界」だったものが、「1億0240万人を母集団として被害者が10万人に生まれ、その被害も深刻化する世界」に大きく社会構造が変わろうとしている。
詐欺の手法が容易で、被害者が大量かつ損害が深刻化しかねない世界で、本当に、詐欺被害の暗数を無視して、裁判所にようやく浮かび上がった個別の被害者だけの存在を前提に損害算定することに固執することは適切なのか、詐欺の加害者に対し、「そのようなビジネスモデルは、カウンターパンチが大きくて割り合わないよ」と教えてあげるだけの賠償を認める必要はないか、そして、そのような法の仕組みを作る必要は本当にないのか。
第三者を誹謗中傷する行為についても、詐欺的ビジネス同様、故意で行われていることが多く、そのような場面で、被害者側で負担が大きく、十分な慰謝料が認められず、事実上、被害者がいわゆる「泣き寝入り」をするしかないとすれば、非常に大きな問題です。また、中傷被害の中には、売名目的で、つまり、結局はお金のために、有名人にイチャモンを付けて絡むケースがあるようです。そのような故意で行われた(大量の)中傷行為には、多額の慰謝料が認められてしかるべきかと思います。とりわけ、このような誹謗中傷行為が犯罪行為である詐欺と同様に金銭目的で行われるとすれば、看過できません。
DaiGoが指摘するように、ネット社会における慰謝料額は低額すぎて、加害者のやったもん勝ちを裁判所が許容している、と感じてしまうのは、私を含め、少ない人数ではないでしょう。