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弁護士 小田 康夫
2016.09.08
2016.09.08
司法試験合格者1583人の衝撃~司法制度改革の行方~
日本の隅々にまで司法的な支援・救済を及ぼし、国民ひとりひとりの権利利益の救済を図るため、「司法試験合格者を毎年3000人程度にまで増やそう!」と、司法制度改革の大きな柱として、法曹人口の増員が高らかに宣言されたのが平成13年頃。その実現に向けて、平成16年に法科大学院(ロースクール)制度ができました。
法科大学院に進学し、新しい司法試験に初めて挑戦した受験生のうち、合格した人数は約1000人でした(平成18年)。平成20年から平成25年頃まで、合格者数は約2000人でしたが、その後、平成26年から合格者数は2000人を下回り、今年は、ついに合格者数は1583人となりました(平成28年9月6日法務省発表)。
合格者数が減少した(=国が合格者数を減少させた)一番の理由は受験者数の減少でした。
法科大学院ができる前、数万人いたと言われていた司法試験の受験生は、平成28年には、6899人に減少しています。初年度の法科大学院の志願者数は7万2800人程度いましたが、それが、平成28年には、初めて1万人を下回り、8274人になりました。
このように受験者数が急激に減少した原因の一つは、予備試験を除き、司法試験に受験するには法科大学院に進学しなければならないという参入規制をかけたことにあります。これは受験生にとってみると、最低でも2年間の時間的負担、そして、2年間の学費や生活費等の経済的な負担を負うことを意味します。
加えて、司法試験後に法曹資格を取得するには、原則的に1年間の司法修習(研修)に行かなければならず、その研修は無報酬で、かつ、原則的に兼業禁止であるため、その期間の生活費等の負担は合格者個人の負担となり、そのような資金を捻出できない場合には個人の借金となるというシステムとなっています。
司法試験合格者の中には、遡って法科大学院の学費、大学の学費等をすべて奨学金で賄ってきた人もいて、1000万円程度の借金を抱える方もいると聞いています。そのような制度であっても、法科大学院発足当初は、司法試験合格後にはその代償を上回るものが約束されると考え、多くの受験生が挑戦していたように思います。しかし、弁護士になっても就職できない、就職できても、年収300万円程度で、大卒・院卒の平均年収を大きく下回っている弁護士も多くいるというニュースが流れています。
進路を選択する高校生や大学生の立場になって現行制度を見てみてください。①法科大学院に行くことで大きな時間的経済的コストがかかり、②卒業しても司法試験に合格する保証はない、③合格しても司法修習でさらに経済的コストがかかる、④いざ弁護士になっても就職がないかもしれないし、⑤仮に就職できても十分な収入が得られないかもしれないという現実。この現実を見て、誰が法曹になりたいと思うでしょうか。こんな現実があるのですから、仕事自体にどんなに魅力があっても、裁判官、検察官、弁護士を目指す人は減少の一途になるのは必然でしょう。
当初、日本の隅々まで司法の救済を行きわたらせ、そして、国民ひとりひとりの権利利益を実現するために始まった司法制度改革は、司法の基礎となる人材を遠ざけ、将来、適切な司法的救済を国民が受けにくくなったという意味で、当初の理念とは逆の方向に進んでいるようです。裁判官や検察官、弁護士を目指す人材が減少したことの結果はどうなるか。司法を担う人材が急激に去っていく中で、将来、重大な社会問題等が放置されたり、個人がさらに生きにくい未来にならないのか、将来の司法の行く末を心配しているのは私だけではないでしょう。
法科大学院に進学し、新しい司法試験に初めて挑戦した受験生のうち、合格した人数は約1000人でした(平成18年)。平成20年から平成25年頃まで、合格者数は約2000人でしたが、その後、平成26年から合格者数は2000人を下回り、今年は、ついに合格者数は1583人となりました(平成28年9月6日法務省発表)。
合格者数が減少した(=国が合格者数を減少させた)一番の理由は受験者数の減少でした。
法科大学院ができる前、数万人いたと言われていた司法試験の受験生は、平成28年には、6899人に減少しています。初年度の法科大学院の志願者数は7万2800人程度いましたが、それが、平成28年には、初めて1万人を下回り、8274人になりました。
このように受験者数が急激に減少した原因の一つは、予備試験を除き、司法試験に受験するには法科大学院に進学しなければならないという参入規制をかけたことにあります。これは受験生にとってみると、最低でも2年間の時間的負担、そして、2年間の学費や生活費等の経済的な負担を負うことを意味します。
加えて、司法試験後に法曹資格を取得するには、原則的に1年間の司法修習(研修)に行かなければならず、その研修は無報酬で、かつ、原則的に兼業禁止であるため、その期間の生活費等の負担は合格者個人の負担となり、そのような資金を捻出できない場合には個人の借金となるというシステムとなっています。
司法試験合格者の中には、遡って法科大学院の学費、大学の学費等をすべて奨学金で賄ってきた人もいて、1000万円程度の借金を抱える方もいると聞いています。そのような制度であっても、法科大学院発足当初は、司法試験合格後にはその代償を上回るものが約束されると考え、多くの受験生が挑戦していたように思います。しかし、弁護士になっても就職できない、就職できても、年収300万円程度で、大卒・院卒の平均年収を大きく下回っている弁護士も多くいるというニュースが流れています。
進路を選択する高校生や大学生の立場になって現行制度を見てみてください。①法科大学院に行くことで大きな時間的経済的コストがかかり、②卒業しても司法試験に合格する保証はない、③合格しても司法修習でさらに経済的コストがかかる、④いざ弁護士になっても就職がないかもしれないし、⑤仮に就職できても十分な収入が得られないかもしれないという現実。この現実を見て、誰が法曹になりたいと思うでしょうか。こんな現実があるのですから、仕事自体にどんなに魅力があっても、裁判官、検察官、弁護士を目指す人は減少の一途になるのは必然でしょう。
当初、日本の隅々まで司法の救済を行きわたらせ、そして、国民ひとりひとりの権利利益を実現するために始まった司法制度改革は、司法の基礎となる人材を遠ざけ、将来、適切な司法的救済を国民が受けにくくなったという意味で、当初の理念とは逆の方向に進んでいるようです。裁判官や検察官、弁護士を目指す人材が減少したことの結果はどうなるか。司法を担う人材が急激に去っていく中で、将来、重大な社会問題等が放置されたり、個人がさらに生きにくい未来にならないのか、将来の司法の行く末を心配しているのは私だけではないでしょう。