「囚人のジレンマ」と刑事裁判
ある重大な犯罪の容疑者2名がいました。
取調官は2人に対する取り調べで、以下のような話をします(2人は別室にいて、相談はできません)。
「もし、①ふたりとも罪を自白すれば、どちらも16年の刑に処する。②ふたりとも黙秘すれば、2年の刑で済む。しかし、③どちらか一方が自白して、もう一人が黙秘すれば、自白した方は無罪放免となり、黙秘したほうは、30年の重い刑となる」
こんなことを言われたら、あなたはどうしますか?
黙秘をするでしょうか?
確認ですが、①ふたりとも自白すること(=ふたりとも自白して懲役16年)が、良くない選択であることは明らかです。
①(=ふたりとも自白して懲役16年)より、②(=ふたりとも黙秘して懲役2年)の方が、より良い結果となります。
こんな状況になったときは、人はどんな行動を取るでしょうか。
有名な話なので、ご存じの方も多いでしょうが、この場合、多くは、①ふたりとも罪を自白する(=ふたりとも懲役16年)という行動を取ると言われています。
ふたりとも黙秘すれば、懲役2年で済むのに、そのような判断をすることはできないというジレンマ。
なぜこうなるのかというと、まず、相手方が自白したとすると、自分が黙秘したときは30年、自白したときは16年なので、自白したほうが良いし、逆に、相手が黙秘したとすると、自分が黙秘すると2年、自白すれば無罪放免となります。結局、相手がどう出るにせよ、自分は自白したほうが罪は軽くなる、「相手も同じことを考えるはず!だったら、自白しよう!(僕もやってないし、相手もやってないけど、相手が僕を裏切って自白をするかもしれない、それで懲役30年は御免だ!)」。
つまり、人は、「相手がどう出ようが、自分が損をしない行動」をとろうとしてしまうのです。
ニュースを見て、「普通の人はより良い結果となる行動をとるはずだから、こんな不合理な行動を取った被疑者は犯人に間違いない!」とか、冤罪事件などの報道を見ても、「じゃあなんでこの人は、当初、自白なんてしたのだろうか?」と疑問に思う人もいるでしょう。
そんなとき、こんな話もあった、ということを覚えておくとその疑問の解決に役立つかもしれません。
ただ、上記のジレンマの話も過度に一般化することはできない点に注意が必要です。
人は「相手がどう出ようが、自分が損をしない行動」をとろうとする傾向があるとしても、条件を少し変えれば、同じような実験結果にはなりません。
ここから導き出される教訓としては、実験の条件によっては、人の行動(自白をしてしまうという行動など)が変わってしまうから、その人がその行動をするに至った心理状況がどのようなものだったのかは慎重に分析されなければならないことが一つ。また、いっそのこと自白(自白は証拠の女王と呼ばれていて、有罪が認定される有力な資料になってしまうもの。)なんて信用しないというのが基本的な態度であるといえましょう。刑事裁判において、冤罪がなくならないのは、自白が重要視され過ぎていることが影響していることは間違いなさそうです。